クリニック開業の方法と、開業前に知っておくべき重要な7つのポイントを解説

2023.02.08
監修者

医療法人けんゆう会 レジーナクリニック
総院長 木村真聡

医療脱毛をメインとする美容皮膚科「レジーナクリニック」の総院長。2021年5月には男性専用の「レジーナクリニック オム」を開院。医療の知見・技術を深めるとともにきめ細やかな接遇を大切にし、患者にとって快適な治療の提供を心がけている。著書に『医師が教える最強のメンズ美容ハック』(幻冬舎)がある。

 

「クリニックを開業したい!」と思っても、まず何から始めたら良いか、どのくらいの時期から何をしていけば良いかなど多くの疑問が浮かぶのではないでしょうか。 事実、クリニックの開業には、非常に多くのステップがあり、それぞれ1つ1つが重要であり複雑です。そのため、最終的にはプロの「開業コンサルタント」などに相談することになると思います。

しかし、自身である程度の知識をつけておくことも、失敗せず最短で開業するために必要なのです。そこで、今回は開業前に知っておくべきポイントを7つに分けて紹介していきます。

医院開業にかかる期間と開業までの流れ

ここでは、開業までの流れを簡単に説明していきます。まず一番初めにする必要があることは、「開業時期目安の決定・診療方針の策定」です。つまり、経営理念や自身の事業のコンセプトを構築していきます。

次に、「事業計画の策定」を行なっていきます。ある程度定まってきた後、資金調達に移行していきましょう。並行して、土地や物件の選定に入っていきます。 決まり次第、クリニックの工事経験が豊富な施工会社に依頼し、内装工事に取り掛かっていきましょう。内装工事に取り掛かり始めた時期から、開業時期に合わせ、導入機器の選定も行っていきましょう。

また、現在の職場に「退職意志」がある旨を伝えることも忘れないようにしてください。その後、開業3ヶ月前からは、「スタッフ採用」や「ホームページ制作」に取り掛かりましょう。そして、開業1ヶ月前には、「スタッフ研修」、集患対策として「チラシ・ポスティング」を行なっていき、また「診療所開設届」等の公的申請も並行して行なっていきましょう。

開業時期目安の決定と、診療方針の策定

クリニックを開業するといっても、戸建てを新築するのか、物件を借りるのかによってもそれぞれ準備期間が変わってきます。 一般的には、物件を借りるのであれば約1年、戸建てを新築するのであれば約1年半の期間が必要とされています。そのため、短く見積もっても開業したい時期から1年前には準備を始めていく必要があるのです。

事業計画の策定

開業時期等が決まったら、次は「事業計画」の策定に入っていきます。「事業計画」は、開業のための資金調達はもちろん、開業後のクリニック運営にも直結してくる重要なステップと言えます。 また、「事業計画」を策定する段階で、クリニックの収支構造を明確にする必要があるため、損益計算書や終始予算書等を作成する必要があります。とはいえ、慣れない作業であるため、専門の開業コンサルタントに相談するのも良いでしょう。

土地選び、物件選定

「事業計画」の策定が完了したら、実際に開業する土地・物件の選定に入っていきます。その際に、しっかり「診療圏調査」を行い、集患が見込めるか否かを見極める必要があります。 また、物件が決まったのち、順次医療機器の導入や内装工事等に多くの時間がかかるため、最低でも開業6ヶ月前には、物件選定・契約まで済ませておきましょう。

資金調達

加えて、「物件選定」と並行して、金融機関等からの資金調達も進めていきましょう。「事業計画」をもとにして、日本政策金融公庫や独立行政法人福祉医療機構等と借入交渉をしていきます。 これらを踏まえた上で、開業半年前までに「物件選定」「資金調達」ができていないと、開業することは難しいと言わざるをえません。

導入機器選定

実際にクリニックに導入する医療機器を選定していきます。クリニック内の快適さや動線を確保するために、内装を決定する前に導入機器の決定をする必要があります。 機器によって搬入までの時期が異なりますので、早めの段階から、メーカーに確認しておくことをお勧めします。

内装設計・施工

導入機器が決定したら、内装を決定していきます。クリニックの内装工事は特殊であるため、クリニックの内装工事経験が豊富な工事会社を選んだ上で、綿密な打ち合わせを重ね、具体的な内装を決定していきましょう。

ホームページ作成

開業の3ヶ月ほど前からは、地域住民へのクリニックの周知をしていくため、チラシや新聞広告、ホームページ等を利用して広告施策を打っていく必要があります。 また、クリニックのホームページ制作を専門に行なっている制作会社もあるので、開業時期に間に合うように発注するようにしましょう。

人材採用

また、広告施策と同時に、スタッフ採用にも着手していきましょう。「事業計画」を策定した際に、おおよその必要人材・人員は把握できていると思いますので、それをもとに求人サイト等での募集・面接を始めましょう。

立地はどう選べば良い?

「診療圏調査」を行い、事前に外来患者数などを予測した上で立地を選んでいきましょう。 どの地域を選ぶかにより、それぞれメリット・デメリットが存在するため、自身の「事業計画」としっかり照らし合わせましょう。

「診療圏調査」を行い、外来患者数の推計から立地を策定する

立地を選ぶ前に、まずは「診療圏調査」を行う必要があります。「診療圏調査」とは、想定患者数や競合となる医療機関などを分析し、候補地における1日あたりの外来患者数の推計を算出するものを指します。 また、調査を行う際には、朝の時間帯だけや夕方の時間帯だけというように、調査時間帯が偏らないように注意しましょう。これは、朝・昼・夕方でそれぞれ人通りの多さも異なれば、クリニックを訪れる患者層も異なってくるためです。

加えて、同エリア内の競合医療機関の調査も忘れないようにしましょう。一見、エリア内に十分な数のクリニックがあり、参入余地がないと見えても、ほぼ廃院寸前のクリニックだったり、院長の高齢化によって診療科目を減らしている場合もあるかもしれません。 もしそうであれば、せっかくのチャンスを逃してしまうことになるので、しっかりと調査を行いましょう。

開業地によるメリット・デメリット

実際に開業地とする候補には、大きく分けて3つあります。 ここでは、それぞれのメリット・デメリットを簡単に紹介していきます。

「都心部の場合」は、集患のしやすさ、発達した交通網による利便性の高さ、スタッフ採用の容易さがメリットとして挙げられます。デメリットとしては、参入障壁が低いゆえに、競合クリニックが多いこと、高額な土地代・物件代などが挙げられるでしょう。 「郊外の場合」におけるメリットは、都心よりも広い診療圏や競合クリニックの少なさなどが挙げられます。一方で、デメリットとしては、将来的に安定した集患が見込みずらい、スタッフが集まりにくい、遠方からの来院に備えた駐車場が必須な点などが挙げられます。

最後に、「医療モール」で開業した場合、メリットは、そのモール自体に集患能力がある点、モール内にある他クリニックとうまく連携することが可能である点などが挙げられます。しかし、他クリニックと診療科目が被ってしまう可能性があること、内装工事業者や医療機器メーカーに融通が効かない可能性があること、どこか1つのクリニックの評判が、良くも悪くも影響してしまうことなどがデメリットとなります。

開業地選定時のよくある失敗例

「失敗例1つ目」は、理想を追い求めすぎてしまうことです。 全ての条件が自分の理想とマッチすることはありません。そのため、あまりに全ての条件と合致する物件を探し続けていると、いつまでも見つからないこともあり得るのです。 こうした事態を防ぐためにも、自身の中で優先順位を決めておき、「最低3つ以上条件が合致したら決定する」のようなルールも定めておきましょう。

「失敗例2つ目」は、医療機関が入れない物件を選んでしまうことです。医療機関が入ることのできる建物には、多くの規定があり、入居直前になって入居できないことが判明すると、1からやり直しなんてことになりかねません。 また、仮に規定はクリアしていたとしても、通路が狭すぎて機材が入らないなどのトラブルも起こりかねません。そのため、初めから開業コンサルタントに相談するか、医療機関の物件取扱経験の豊富な不動産会社等に相談すると良いでしょう。

「失敗例3つ目」は、人気なエリアを選んでしまうことです。例えば、マンションや住宅開発が進んでいるエリアは、人口の増加が期待できるため、魅力的です。 しかし、その事実のみから判断してしまうと、初めに定めていたターゲット層が、後々になって、実は別のターゲット層がメインだったことが判明する等の事態に発展する可能性があるのです。これを防ぐためにも、事前にしっかりと予定エリアの人口構造を把握しておきましょう。

開業に必要な資金の目安

診療科目によって異なってきますが、一般的には5000〜1億2000万円と言われています。 そのうち、約2000〜7000万円を金融機関等から調達するケースが一般的です。

金融機関からのおすすめ資金調達先

民間金融機関が融資に積極的である場合は、融資条件の良さなどから民間金融機関を選ぶほうが良いでしょう。民間金融機関の他に、日本政策金融公庫や独立行政法人福祉医療機構等の「公的金融機関」も選択肢に入れておきましょう。

自己資金はどれほど必要か

自己資金を全く用意しないケースも増加してきていますが、できれば必要資金の1、2割は自己資金でまかなう方が良いでしょう。実際、必要資金を全て自己資金でまかなった上で開業したクリニックは、全体の20%以上存在します。

内装工事で気をつけるべきポイント

設計や内装が法令基準を満たしているかどうかをしっかり確認しましょう。 バリアフリーや防音対策は万全かどうかにも気を配りましょう。

設計や内装は法令基準を満たしているか

内装工事を依頼する際には、業者から提示された費用の構造をしっかりと把握する必要があります。一般的には、内装費は「坪単位」で計上されますが、設計図の制作費等を「設計管理料」として別枠にしている業者もあります。 クリニックの内装は、建築基準法や医療法によって明確な基準が定められています。

バリアフリーや防音対策を万全に

院内はもちろんトイレや医院へのアプローチを含め、バリアフリー設計にすることは常識となっています。医療機器を設置した後でも、スタッフはもちろん、患者さんにとってもストレスフリーな動線を確保する必要があります。 患者さんの個人情報も多くなるため、他の患者さんから見えにくい設計にするなど、プライバシーの配慮も必要不可欠です。

医療機器選定のポイント

「事業計画」と照らし合わせた上で、無理のない範囲で選定していく必要があります。 クリニック運営において、効率化やコストの面から電子カルテを導入することは非常に重要です。

事業計画と照らし合わせて無理のない範囲で選定を行う

「事業計画」も参考にしながら、自身が目指す医療を実現できるかどうかで選ぶ必要があります。例え同じ検査機器だとしても、グレードの違いが存在するため、自身が目指す医療レベルや資金面としっかり照らし合わせましょう。 例えば、幅広い治療を目指すのであればCTなどの検査機器から診療科目に特化した医療機器まで導入する必要があります。 医療機器を導入すると言っても、コストや資金と相談した上で、新品で買うのか中古で買うのか等を慎重に検討していきましょう。

電子カルテの重要性

診療科により必要な医療機器に違いはありますが、どの科にも共通して言えるのは「電子カルテ」が必要不可欠であるという点です。現在では、電子カルテと会計システムが一体となったシステムが主流となっています。 医療機器に電子カルテが対応していない場合があるため、事前に連携の有無を確認しておく必要があります。

ホームページは必要?ホームページの重要性

ホームページがあることで、スタッフ採用をスムーズに行うことができたり、患者さんへの信頼に繋がったりといったメリットがあります。開業前からホームページを掲載しておくことで、事前広告として集患効果を生むことが可能となります。

患者様の集客準備に

インターネットが普及した現在、患者さんはインターネットを通じて医療機関の情報を得ることが多くなっています。患者さんファーストで考えるならば、患者さんにとって見やすいホームページ作りをしていくことが必要です。 ホームページだけが集患準備になるわけではなく、各種SNSやチラシ等様々な広告手段を組み合わせていきましょう。

人材採用や、クリニックの信用を向上させる役割も

総務省の調査によると、医療関連で調べたいことがある際、約75%の人がインターネットを利用するというデータがあります。ホームページがないことで、信用力が低下することにも繋がりかねません。 逆にいうと、ホームページがあることで、患者さんにはもちろん、応募を考えているスタッフの方に対しても透明性をアピールすることができます。

スタッフ採用時のポイント

「どんな人を採用するか?」は医院の雰囲気を決定付けるだけに、非常に重要なポイントとなります。開業前の人材募集にハローワークは使えないので、基本的にはウェブの人材募集サイトや新聞の折り込み広告、求人誌ガイドなどに募集広告を打って、必要な人材を募集することになります。 受付事務担当のスタッフに関しては、効率的に運営するためにも、診療報酬に詳しい人を最低1人は雇うようにしましょう。

開業に失敗しないための注意点

自院に最適なコンサルティング会社を見つける

開業コンサルタントには、開業支援だけでなく、開業後も集患や経営に関するさまざまな課題に共に向き合っていくという役割があります。 一方で、「開業コンサルタント」の中には、コンサルティングを専門で行っている会社もあれば、行政書士等が専門職として行っている場合もあります。開業まで手伝って欲しいのか、それとも開業後もアドバイスが欲しいのかなどで、自分に合ったコンサルティング会社を選びましょう。

費用はシビアに確認!余裕を持った事業計画を

失敗の要因として最も多いのが「費用」に関するトラブルです。 思わぬ形で支出がかさみ、当初想定していた事業計画の達成が難しくなるケースも多く存在します。自分の策定した「事業計画」としっかり照らし合わせ、予算を超えた医療機器購入やコンサルティング依頼をしないように気をつけましょう。

まとめ

開業までには多くの複雑なステップを踏まなければなりません。 もちろん「開業コンサルタント」等に相談し、手伝ってもらうことも大事ですが、まずは院長自身が流れをしっかり把握しておくことが、余計な手間を省くことや失敗しないことにもつながります。